●NY&釜ヶ崎 サポーティブハウジング経験交流会 の記録
(更新日2002年12月30日)


日時:2002年7月5日(金)13:00-16:30
会場:大阪市立難波市民学習センター
主催:釜ケ崎のまち再生フォーラム、NPOコモングラウンド(NY)、日本NPOセンター、ジャパンソサエティ
進行役:ありむら潜
パネリスト:ロザンヌ・ハガティ(NPOコモングランド 創設者&専務理事)、宮地泰子(「シニアハウス陽だまり」オーナー)、山田和英(マンション「フレンド」オーナー)、西口宗宏(「ウエルフェアマンション 'おはな」オーナー&萩之茶屋連合第6振興町会会長)
参加者:約30人

○この記録はHさん(大阪市大院生/地理学)のノートにありむら潜(当日の進行役)のメモを少し加えたものであるため、重複部分あり。


■ まずロザンヌ・ハガティさんの自己紹介
  • 2年前にも来たが、今回また来ることができてうれしく思っている。
  • 昨日と今日の午前中、釜ヶ崎の動きをみて驚いた。非常にいい方向に進み、活性化している。
  • とりわけ7つのサポーティブ・ハウスの運営に驚き、感心した。
  • NPO支援センターに行政の力が入って運動が進んでいる。
  • 2年前には元ホームレスによるホームレスの介護サービスや、自立支援センターというものはなかった。今回はそれをみてまわった。
  • もうすぐ国の法律・対策が成立する。そうなればさらに多くの関心があつまり、解決に向かうだろう。
  • ・ 釜ヶ崎でまだなされねばならないこと、課題があることは事実だが、みなさんの動きに希望があることを確かに感じた。
  • 今日は3つのポイントに絞って話をすすめるが、まずはビデオでニューヨークの様子をみてほしい

■ ビデオ終了後の解説
    <論点1>(当事者に着目して)当事者のエンパワメントの現状と課題

  • 現在、ニューヨークでも同じような問題を抱え、同じように苦しんでいる人がいるなかで、多くのプログラムが実行されている。ニューヨークでは3〜4万人のホームレス人口であるが、半分以上は家族のホームレスだ。
  • 日本とニューヨークのホームレス問題では、男性で直前職が低賃金の単純労働である層に関しては同じような側面をもっているが、ニューヨークはプラスαで精神病、薬物依存がみられ、このような人々がホームレス状態に陥りやすい。
  • 私の団体のようなところでは、この問題に取り組むにあたって、@仕事の確保、A健康の問題、B薬物依存という3つの課題に直面する。
  • この3つの課題をどうにかしなければならないわけだが、それよりも確保しなければならないのは住む場所だ。
  • 当事者の意識を高めるためには、  @人間としての尊厳(→自分は尊敬されていると思うことがだいじ)  A(問題解決のための)適したサービス(が用意されていること)。(→身体的なケアだとカウンセリングがあるとか、薬物依存者だとサポートグループを紹介できるなど、入居者との信頼できる人間関係がだいじ)  B仕事など、何かをつくりだすアクティビティー・生産的な活動(→その中で「自分は何かできる」「役に立つ」ということを経験すること。その中でこそ生きがいを見出すことができる)  Cコミュニティー(との関わりを採り入れること。社会とのネットワーク)(→私のところでは、サポハウスの中を一般の人にも開放している)(この地域に自分も属しているという気持ちをもつことがだいじ。通過施設の人々にとって特にたいせつ) 、という4つの要素がある。
  • その場所がきれいであり、安全であり、魅力的であるということは、そこに住んでいる人がどう感じているか、ということに関わる。
  • 昨日サポーティブハウスをみたが、そこで感じた暖かい雰囲気と、シェルターの雰囲気とのちがいに驚いた。その場所は、その人がどのように感じているのか、ということを表している。
  • コモングラウンドが目指すポイントは、自分は尊敬され、尊厳をもっているということを感じること、そのことを通じて将来へのポジティブな考えをもつことができるようになる、ということだ。
  • 当事者意識を高めるためには、当事者自身が問題を解決できるようなサービス・プログラムが必要だ。
  • 精神的な病をもっている方には、カウンセリングを施し、投薬を施す。身体的問題については、治療ができるようにする。薬物、アルコールに関しては、サポートグループを紹介し、適した治療ができるように手配する。
  • サポートをするときに必要になるのは、入居者との信頼関係を築き、お互いのことを知り合うこと。
  • 3番目の要素は、生産的な活動である。つまり、なにかをつくりだす活動のなかで生きがいを見出す、ということだ。
  • 当事者意識を高めるためには生産的活動を通じた自立の意識、障害をもっていても社会に役立っていると意識できることが重要。
  • 4つめのコミュニティーに関しては、地域とのかかわり、ネットワークを取り入れることによって進めている。
  • 一例として、サポーティブハウスの部屋を一般の人にも貸している。そうすることで、自分たちだけが住んでいるのではなく、いろいろな人のなかで住んでいる、という意識が生まれる。
  • 地域のなかに属しているという感覚は、路上からの通過的な段階にいる人にとっては大切なことだ。

<論点2> (市民支援に着目して)居住者サポートNPOのあり方、つくり方は?
  • 次に、アメリカではNPOがどのようにつくられて、どのように運営されているのか、という点について話したいと思う。
  • アメリカではNPOは比較的長い歴史をもち、社会の一セクターとしての地位を確立している。
  • 団体がNPOという形式をとる理由として、@その使命の性格上からの理由と、A財政的に都合がいい、という理由が挙げられる。
  • 歴史的にみて、社会福祉団体は公共生活の向上を行うために、NPOという形式をとることが多い。
  • また、公共生活の向上というミッションをもった団体は、財政上でも優遇される。すなわち、NPOは自分たちのリソースに対する税金を払わなくていいし、NPOに寄付した団体にも税制上の優遇措置がとられる。
  • 行政はNPOにだけは福祉サービスを実施していい、としている側面があり、NPOにそういった仕事を託している。
  • それというのも、一般社会からNPOに対する信頼、そのサービスに対する評価が高いのだ。
  • 一般の企業がサービスを提供しようとしても、利益追従になるのではないか、とみられる傾向が一般にある。
  • 日本でNPOが盛り上がっているが、アメリカでも面白い状況にある。アメリカのNPOのおもしろい点は、よりビジネス感覚をもったNPOが出てきて、一方で一般企業が社会奉仕活動を重要視し、両方がお互いの領域に入ってきつつある、ということだ。逆転状況。
  • まわりからNPOを見る目は、NPOでもしっかりした実績を上げ、合理的な運営をしてほしい、という見方であり、また企業に対しても社会的貢献、地域への貢献が求められている。
  • 社会奉仕活動をするにあたってのキーポイントは、@効率性、A他のやり方との統合(コーポレーション)である。
  • また、NPOのどういうところが見られるかといえば、@効率的なサービスの提供、そしてAどのようなやり方でそれが効果的に行われているか、という点である。
  • 日本のNPOの活動のなかで、効率性、統合の大切さをみることができる。
  • アメリカの最近の事例では、コモングラウンドは企業のビジネスパートナーをもっている。ベン&ジョニーアイスクリームは4つの店舗を持っているが、そこはジョブ・トレーニングの場であると同時に、活動資金を稼ぐ場でもある。これは、NPOと一般企業との有益なパートナーシップの例だ。
  • アイスクリームの運営もしなければならないので、コモングラウンドはこの活動によってよりビジネスライクになる。
  • ベン&ジェリーは私たちの店の成功を喜んでくれている。この連携によってベン&ジェリーの評価は上がり、市場的にプラスに働き、収益をもたらすのだ。わたしたちのミッションを応援することには、このようなメリットがある。
  • NPOと企業との協力の他の例として、マリオット・ホテルとの提携がある。マリオット・ホテルはニューヨークに店舗を増やすたびに私たちに連絡し、従業員の採用、広告、トレーニングを任せてくれる。また、コモングラウンドの中から人を使ってくれる。
  • このような例をあと3つ紹介しよう。
  • アメリカの大都市では、BID(Business Improvement District)という地域が活発化している。これは、ビジネス環境をよくすることを目指した地域である。
  • この考えは、ビジネス・エリアをより魅力的にしよう、ということを目指しており、ビジネス界を巻き込んで、道がきれいになるために、安全になるためにお金を出す、こういった地域である。なかにはNPOを立ち上げてやっているところがあり、それらの財政源になっているのはビルをもっているオーナーである。
  • タイムズスクエアもBIDの成功例のひとつだ。1970年代から80年代、90年代を通じて、タイムズスクエアは汚い、環境の悪いところだった。この地域の環境を向上させるために、道をきれいに、安全に、と呼びかけて環境を良くしていこう、という運動を行ってきた。
  • BIDの成功したポイントのひとつは、道をきれいにする活動にホームレスを雇ったことにある。NPOが彼らを雇って参加してもらい、そこで得たお金で泊まる場所を確保できた。
  • これらの活動は非常に良いインパクトをビジネス界に与えており、雇用創出の流れができていった事例である。
  • もうひとつの事例。NPOがホームレスのために雇用を開発し、財政源を確保した事例としては、ベン&ジェリーに加えて、リサイクルショップ、古本販売がある。これらの活動においては、収益活動と雇用創出の両方の要素を含んでいる。
  • 多くのNPOは、収益と雇用が両立することを立証している。コモングラウンドは建物の管理で成功しているし、使われた建設資材を集めて売るNPOもいる。
  • もうひとつの動きは、フィラデルフィアプランである。これは、企業が自分たちの共感できるNPOに物資、資金援助、会計のアドバイスをするという動きだ。フィラデルフィアで行われているプランで、企業のこの動きに対しては税制上の優遇がなされる。

<論点3> (行政支援に着目して)行政支援をどう引き出すか。

  • 最後に、行政をどのように巻き込んでいくか、という点についてお話しよう。
  • ここ5年のホームレス問題の解決で重要な点は、ニューヨーク市が支援団体とのつながりをもつようになった、ということだ。
  • 市の運営するシェルターは人気がなく、泊まることを避けている(恐れている)人もいた。
  • そこで市当局はアウトソーシングという方針に転換した。つまり、シェルターの管理、運営をNPOに任せれば、効率的で質の高いサービスを提供できる、ということに気づいたのだ。
  • NPOからは様々なアイデアを出してきたが、行政は長いあいだそれを否定する、という構図だった。長い歴史のなかで市当局に訴え、裁判をするなかで、市の姿勢が転換したのだ。市とNPOの協力で成功した例として、たとえば、市がリソースを提供し、NPOがプログラムを提供するというパターンがある。
  • NPOは、デモンストレーションプロジェクトによって市を説得することに成功した。市当局は新しいことに対しては消極的だ。デモンストレーションプロジェクトとは、市当局に対して、一度実施しても、必ずしもずっとそれをやり続ける必要はない、と思わせるプロジェクトであり(→市の仕事がふえるのではない)、市当局に喜んでやってもらえるような意義を感じてもらうためのものだ。
  • そこでは、政府があるプログラムを実施すると、ホームレスの人口が増加し、市の仕事が増える、という発想を変えて、実験に一緒に乗ってもらうよう提言をする。
  • NPO同士で強いネットワークをもち、強い発言力をもつことで、長期的な視野にたって行政と一緒に仕事をすることができる。
  • 新しい市長になって、長期的な視野はとりやすくなり、5年計画のプログラムが発動した。
  • 実践的には、達成しうる(明確な)ゴールをもつ、ということが大切だ。ホームレスの問題解決のために行政は多大な費用を支払っており、より効果的な別の使い方を提言した。新しい市長に対しては、イギリスで過去4年間になされた施策が効果的であると提言したのだ。
  • ブレア首相は1年間の検討会を経て、2002年4月までにホームレスの数は3分の2にできる、と発表した。このように政策的に明らかに唱えたこと、具体的に数を示したことにより、目標を達成したのだ。
  • NPOは、ニューヨークでもこのような手法をとるべきだと主張した。まず具体的な数字を出すこと。例えば、5年以内に1000室の部屋を用意する、など。そして、雇用のためのトレーニング&雇用創出をする。また、ホームレスを未然に防ぐ活動を実施する。多くのホームレスが直前にいたところは、精神病院、刑務所、孤児院などであり、そこを出た後にどういう生活をするのか、という指導がなかった。
  • 行政を巻き込む4つのポイントは、
     @政治的リーダーシップをとってもらうこと
     A効果的プランニング
     BNPOのリソースを使っていくこと
     C評価しうるようなゴールを設定すること
    を行政に要求していくことだ。

    <まとめ>
  • ニューヨークが22年間ホームレス問題に取り組んできてわかったことは、4点にまとめられる。
     @行政、NPO、企業といったすべてのセクターがこの運動を推進すべきであること
     Aプログラムの重要性。つまり、生きるという段階から自立して生きていくというところにつなげるために必要な、一貫したプログラムが不可欠だということ。
     B包括的なプランニング。その人の人生そのものを支えていく(包括的)プログラムであること。仕事、精神的ケア、住居、すべてを包括的に支えていくものであること。仕事だけとか、カウンセリングだけとかはダメ。
    Cホームレスは解決しうる問題、治せる病気である、という認識をもつことが重要。

■ 質疑応答

(質問)アーティストを巻き込むのはニューヨークらしい。日本の場合、アーティストにかわるような存在はいますか?(会場から)

(回答)何名かはいる。吉本系の売れない若手の方。彼らは、常に仕事があるわけではなく、かなり収入が少ないので、パートやバイトをしている。こういう人は結構いるのではないかと思う。彼らはコンビを解消したら吉本から首を切られるような状態にある。また、学生さんで芸術をしたい人がいる。研究的に何名かいるのは確かだ。(釜ケ崎側オーナーの一人)
(ハガティ)NYではその点(多様な人々の結びつけや混住)が成功のカギだった。日本ではホームレス以外の対象を私は思いつかないが、昨日は釜ケ崎でもよい例を見た。NYでは貧乏なアーチストを呼び込んだりしている。

(パネリストの一人から質問)日本ではNPOが行政化、天下り先、第3セクター的なものになってしまわないか懸念している。アメリカではそういう懸念はないのか?
(ハガティ)多くのタイプのNPOがあり、力をつければ逆に独立しようとする。理事会やミッション(社会的使命)が守られているからだ。
(会場からの回答)日本の場合は、役所が上という意識があり、許認可権を持っているのでそうなる。
(ハガティ)アメリカでは許認可権はまったくない。誰でもNPOを始められる。

(意見)サポハウスの入居者は仕事がない、というのが現実だ。この人たちのアクティビティーを開発する必要がある。賃金だけではなく、社会とつながれる、人の役に立てる仕事をつくってほしい。(不明)

(意見)ほとんど高齢者を対象としているので、(エンパワーメントの在り方は)就労ではなく、生きがいづくりになってくる。商品化をすることは難しい。また、なにかをしようとすると、現在それで糧にしている人の仕事を奪ってしまうことになりかねない。(就労という意味では)ほとんど絶望的だといえる。(オーナーの一人)

(意見)仕事づくりと生きがいづくりは、別に考えるべきだろう。(生きがいづくりという意味では)たとえば、新聞作りなどの、新しいアイデアをつくっていく必要がある。(会場)

(意見)サポハウスの入居者には、いろいろな仕事を手伝ってもらっている。たとえば、配食の食事の配膳や、段取りなどをしてもらっているが、楽しんでやっているようだ。また、地域の掃除、幼稚園の掃除などもやってもらっているが、地域に役立っているという感覚をもってもらっている。必ずしも就労にこだわる必要はないだろう。(オーナーの一人)

(質問)ニューヨークの場合、生活保護をとって、サポハウスという状況ではない。だからニューヨークでは雇用という話になる。その前提の部分の話を聞きたいと思う。(会場)

(ハガティ)状況はたしかにちがう。ニューヨークでは住居手当を受けている人はいない(?)。65歳以上であるという条件等で認定を受けることができるが、その支援によってサポハウスに住むことができる。高齢者、精神病者に対する補助金が出て、それが助けになる。
難しいのは若い世代の人をどうするか、ということだ。彼らは働けるのに仕事がない。ニューヨークには行政から提供された仕事で賃金をもらうことができる制度がある。稼いだ賃金でもサポハウスの入居に足りないことがあるので、補助金をとるように指導することがある。
しかし、入居者に対してはフルタイムの仕事についてほしい、といつも言っている。行政からの補助金だけでは運営費がカバーできないからだ。
入居者の賃金は貴重な収入源になっている。政府から補助をもらっている人のほかにも、仕事をしてその収入から家賃を支払う人もいる。いろいろな人の統合、ミックスがうまく働いている。

(質問)サポハウス全体としてはうまくいっているけれども、個々の部分でマイナスを引き受けている、ということですね。(会場)

(ハガティ)そういうことです。

(質問)日本では東京、大阪ともに心理学的なカウンセリングの対応がなされていない。ニューヨークでのカウンセリング体制はどうなっていますか?

(ハガティ)まず、確認しておきたいこととして、定住型サービスは受けたいときに受ける、という方針で、プログラムの強制は無い。なんらかの問題が起こった時は、精神などのカウンセリングではなく、コミュニティーの中で解決している。様々な分野の人々が出入りしてアイディアを出し合うような解決の仕方をしている。例えば、メンテナンスや整備の仕事をしている人にもメンタル面でのカウンセリングを行っている。これはスタッフ同士の対処療法であり、スタッフ同士でもカウンセリングの訓練を行っている。問題の初期段階での手助けを行っている。それ以外には、建物の中にクリニックも関わっていて、訪問看護や訪問医師などによる医療面でのサポートも行っている。低収入の人に対しても健康チェックを最低限のお金で受けられるように提供している。薬物の問題に関しては、アル中の自助ヘルプの会など団体を招いてサポートしている。
次に通過型のサービスとしては、まず入居したらカウンセリングを受けることを義務づけている。(入居者への動機づけとして)カウンセリングを受けたら、(入居者が望めば)定住型住居を保障することを確約している。通過型から定住型に移行する過程では、それぞれのNPOどうしの協力もとサポートを行っている。(ハガティ)

(質問)建物はどういう街の中にあって、地域との協力体制はどのようになっているのか。また、就労に関しては、(日本では)ホームレスとわかった場合仕事を断られることもあるが、ニューヨークではどうなのか。(会場)
+…この質問に関連して、建物と地域の人々との共生はどうなっているのか。また、建物の中では低所得者と(そうでない人たちとの)共生はうまくいっているのか。(進行役)

(回答)釜ヶ崎の周辺は労働者が多い。商店は一割であり、釜ヶ崎での交流は主に労働者が中心。収入の部分で不安定な労働者と交流することは安定した収入を得られる人を食い物にする可能性も否めないので、地域との人々との交流といった点では、難しいのではないか。(オーナーの一人)

(質問)町会については?(進行役)

(回答)萩之茶屋第6町会を結成した。この第6町会は、釜ヶ崎再生フォーラムのモデル地区内にある。この町会活動では、釜ヶ崎の内部での子供の問題、ドヤに住む労働者の問題、生活保護受給者の問題などに取り組んでいるが、その中でも一番大切なのは、昔から釜ヶ崎に住んで、現在高齢者となった人々の町会への関わり方の問題である。このような人たちは、町会の役員にはならないが町会活動には参加できる人々である。このような高齢の人々や、町内にある保育園などの専門家などの意見をもとにビジョンを作っていこうと考えている。そして、現在のような動きのある地域性をもとに、このまちのスラム化を防止して釜ヶ崎を支える町会となって行きたい。(町会会長)

(回答&質問)カウンセリング体制について…最近アルコールの問題で困ってきた。解決の方法としては、しょっちゅう釜ヶ崎に出入りしているアル中の専門家だけではなく、コミュニティーの人に対応を頼むのが最近では新鮮に思えてきた。(そこで、質問ですが、)スタッフ、警備員が訓練を受ければ対応できるという点に関して、訓練の仕方は具体的にはどうなっているのでしょうか。(オーナーの一人)

(ハガティ)まず、訓練に関しては、(専門家ではないスタッフに対して)一年に何回かのトレーニングをうけるようにしている。トレーニングは精神病のスペシャリストに頼んで、導入部分からの訓練を行っている。大切なのは、薬物やアルコール依存になっている人々にこの建物をどうしたいか、という討議の場に出席してもらうこと。建物の中の良い雰囲気をつくるためには、入居者同士の助け合い、ピアサポートが大切。(ハガティー)

(質問)そういう討議に参加する人たちは入居してどれくらい経つのか?(進行役)

(ハガティ)入居したその日から討議には参加してもらっている。討議の会は1週間に1回程度行われていて、スタッフの接し方など、様々なことについて入居したその日から発言できるようになっている。

(質問)周辺の人たちとの関係はどうなっているのか、また、地域とのかかわりについてはどのようなプログラムを作っているのか。(進行役)

(ハガティ)建物のあるタイムズスクエア周辺では、そのような地域とのつながりのプログラムというのはごく自然にできあがっている。地域での仕事に関しては、周囲のコミュニティーの(店舗や事業所)従業員として関わっている。地域の集会などの活動に関しては、地域の問題点を話し合う場に積極的に参加するように呼びかけている。そのほかには、年に4回アートショーを開催したり、健康診断を行ったりしている。また、建物の中の会議室を開放して、様々な人々の出入りを可能にしている。

(質問)ニューヨークはNPO、釜ヶ崎は一般企業が(サポーティブハウジングを)運営しているが、サポートを行うというのでは共通。その上で、専従で働いている人の雇用体制やスタッフの経済状況はどうなっているのか。また。サポートを行っているNPOの資金源はどうなっているのか。(進行役)

(ハガティ)(サポーティブハウジング)運営の動機の部分に関しては、低価格の住居提供という点ではもちろん一致していると考えている。職員のサラリーに関しては、助成と寄付、建物内の部屋の家賃で支払っている。(スタッフの30%が入居者で占められている。)また、ボランティアで関わる人に対しては、居住費を補助するような仕組みをつくって、若い人々に利用されている。

(回答)細かい対応が非常に印象的である。職員に関しては、お金の問題ではなく、誰が担当するか、という人材の問題がいちばん大切である。(オーナーの一人)

(回答)助成に関して言うと、大阪では助成は受けていない。行政に助成をもらうと規制がはたらいたり押し付けが生じて、自由な動きが出来なくなる。それで入居者が不自由になる可能性もある。今のところ一定の収入の範囲で運営していこうという方針になっている。(オーナーの一人)

(回答)助成は考えていない。けれども、アルコール・精神障害・かけごとに関する問題を解決するため、さらには釜ヶ崎のまちをスラム化させないためには、行政の力は必要だと感じる。(オーナーの一人)

(意見)アルコールの問題の専門のNPOと連携すればどうか。従業員をトレーニングし、アドバイスを受ける。こういった方向性に対しては、助成を受けうる可能性がある。助成を受けるなかで、お金、人材の問題を突破していける。このようなかたちで、各部門で突破していく必要があるのではないか。(進行役)

(回答)安定・自立の方向に向かう仕組みを広げていかねばならない。いますぐにでもそういったNPOができてほしい。(オーナーの一人)

(意見)現在の運動は、企業だからできることだが、そこを超えていくためには、NPOをからませていかねばならない。アルコール問題がその突破口になるのではないか。(進行役)

(ハガティ)宮地さんのコメントに追加したい。日本でも法案ができるのでちょうどいい時期にきている。アメリカでの助成金の使われ方でいうと、2つのタイプの助成金がある。ひとつは、政府を通したもので、これは行政が直接コントロールするものだ。もうひとつは、政府は通したものではないもので、これは民間を通じて行われ、コントロールは緩い。後者をノンライセンスファシリティーというが、そういうものをつくるように大阪市に呼びかけてはどうか。さらに言えば、入居者への援助金がいったんオーナーに降りてくるというシステムが有効だろう。

(会場からの意見)NPOと企業の違いが大きいように思う。アメリカではNPOがビジネス的でなければならないという部分があり、またNPOと企業のマインドが近い。クリスチャニリティーを共有しているので、企業も日本ほどめちゃくちゃなことはできない。アメリカだからこそできるのであって、そのままのかたちでは日本ではできないだろう。建物を管理する企業と、生活支援をいかに分けるのか、そのへんの整理が必要だ。

■ 最後に、感想コメントを各人から

(オーナー兼町会新会長)
日本では行政の介入がきつすぎて、NPOであっても行政に引きずられる。これを懸念せざるをえない。コントロールを受けない助成があればいいのだが…
今までの町会のあり方は行政の使い走りだ。もっと地域の声を拾い上げるということ、行政サービスをもっと地域に広げるということ、その両方を獲得していきたい。地域の新しい住民、商店街、従来の住民、もちろんアルコール依存症の人も含めて、包括的、前向きな町会でありたい。そういうビジョンをつくっていきたいと思う。

(オーナーの一人)
大多数の人が安定感、達成感を感じているが、一部のスリップについて無力感を感じている。また、周辺からは、釜ヶ崎があることで地域全体が悪くみられる、との非難がある。これをどうすればいいのか、というのも問題だ。長年路上で暮らしていると、いろいろなルールが崩れる。それはすぐ居宅に移っていいものか。ひとつ訓練場所(中間施設)が必要だろう。

(オーナーの一人)
民間企業がなんでそこまでするの?という疑問があるが、バブル以降民間企業は危機的状況にあり、そのなかで変われない企業は危ない。民間企業に対する認識を変えなければならない。行政が民間についていけないので、行政への不信につながっている。アルコール問題等については、「してほしい」という位置で人生をすごしているのだから、自分のいる位置を良くしていこう、という方向性を持たせることが必要だ。

(ハガティ)
民間セクター(オーナー)の努力から学ぶことがたくさんある。包括的な方法で計画を立て、息長くやっていくことが重要だ。国で法律ができるということで、非常に重要な時期にあり、さらに多くの注目が集まるだろう。コミュニティーが集まってこの問題を解決しなければならない。第一に、65歳以上の人に対する対策としては、居住の確保である。第二に、55歳から65歳の人に対しては、助成金等のなにかしらの援助によって仕事を得るという支援。第三に、若い人達に対する就労、またはそのトレーニング。最後に、精神的な問題に対するケアをどうするのかが問題だ。そのような人に対するためのスタッフをトレーニングしなければならない。例えば村松さんの知識をシェアしていく。いろいろな力を使って新しいプログラムを行っていくことが必要だ。

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